御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
怜人さまの首筋からはあの魅惑的な香り。
……大好きな人の胸に抱かれることが嫌な人なんて、どこにもいない。
「……嫌じゃないです」
そうぽつりと答えると、頭の上で怜人さまがクスリと笑う声がした。
「それなら何の問題もありませんね。しっかりつかまっていてください。……もう僕から離れないで」
そう言って怜人さまは私の髪にキスを落とす。
ふたりの距離がどんどん近くなっていく幸せで、私の心はいっぱいになって……不意にあふれた涙に戸惑いながら、私は怜人さまの胸に顔を押し付けた。
怜人さまのマンションまで戻り、ソファにそっと降ろされると、怜人さまは洗面器にお湯を張って私の足を洗い始めた。
いくら「自分でやりますから」と言っても聞いて貰えない。
怜人さまに足を洗ってもらうなんて……。身がすくむ思いだ。
「痛いでしょう。こんなに怪我をして……。本当にあなたってひとは」
「もうしわけありません」
「この程度で済んだから良かったものの、ガラスでも踏んだらどうする気ですか」
ため息をつきながら、まだタキシード姿のまま膝をついて私の足を洗う怜人さま。
背の高い怜人さまを見下ろすなんて初めての経験だけれど、目を伏せた顔も本当に素敵だ。