御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「理咲、僕の話をちゃんと聞いてますか。どうして靴を脱いだりしたんですか。それに……髪も解いてしまったんですね。エレガントでとてもよく似合っていたのに」
「それは……」
あの時、レイチェルに父のことを罵倒された。
父の長年の努力結果をまるで偽物のように言われ、それが自分の立場と重なってしまった。
偽の秘書、偽の婚約者候補。
そう思うと、普段履くことのない高いヒールを履き、美しく着飾った自分自身が、まがい物のように思えてしまったのだ。
「自分が偽物のように思えてしまったんです。何が本物なのか、もう分からなくなってしまって」
そうつぶやくと、手を止めた怜人さまがふと顔を上げた。
下から見上げられる表情は、壮絶なまでに美しい。
言葉を失う私に、彼の真剣な眼差しが注がれる。
「理咲、あとであなたにきちんと話します。今までのことも、僕の気持ちも全部」
手当てを終え、先に怜人さまがバスルームに向かった。
入れ替わりでバスルームまでまた抱かれて運ばれ、私もなんとか傷を濡らさないようシャワーを浴びる。
入浴を終え、ゆっくりと部屋に戻っていく途中、また怜人さまに抱き上げられた。
そしてリビングのソファにゆっくりと私を下ろすと、隣に自分も腰かけた。