御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

「だけど、一体どうしてお父さんは姿を隠してるのかな……」


怜人さまの話だと、何人かのプロに父の行方を探す依頼をしたけれど、いまだ手がかりはつかめていないという。

私たちが父に会ったのは、救急車で運ばれた都内の病院に見舞ったのが最後のことだ。

その時父の診断は軽い心筋梗塞。早めに見つかったから良かったものの、予断を許さない状態とのことでそのまま入院になった。

父が母の暮らす伊豆に転院したと聞いたあとも、母はお見舞いに行こうとする私と陸をなにかと理由をつけて拒み、入院している病院名すら知らせない。

その割に電話で話すと、『この間お父さんも……』などと父と会話をしてる様子がうかがえ、問いただすと話を逸らすの繰り返しで、最近はもう追求するのを止めている。

とにかく父は、母と会話できるほどには回復しているということだ。


「会社がダメになったことから、まだ立ち直ってないんじゃないの?だから今回の西条さんの申し出は朗報だろ。父さんに話したら喜ぶだろうし、早く伝えたいよな」


そう言って、空になったペットボトルをゴミ箱に投げる陸はなんだか嬉しそうだ。

壁に当たってペットボトルが上手くにゴミ箱に収まり、得意そうな顔を私に向ける。

陸のこんな明るい顔を見たのは、会社の件があってから初めてのことだ。


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