御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「今度の週末、ふたりで伊豆へ行ってみる?怜人さまが言って下さっていることも、ゆっくり説明したいし」
「そうだな。じゃ、俺も休めるようにしとく。……でも姉ちゃん、西条さんと一緒に住んでることも話すことになるだろ?それ、絶対ばあちゃんに怒られるぞ」
確かに、『結婚するまでは軽はずみに男性と付き合うものではない』という頭の固い祖母に、怜人さまとのことを説明するのは、きっと骨が折れるに違い。
やっかいな仕事がまたひとつ増えたというのに、私の心は希望で膨らんでいた。
駅まで送ってくれるという陸と一緒にマンションの部屋を出た。
狭い路地から駅に向かう大通りに向かって角を曲がった時、暗闇に浮かび上がった人影に気づきハッとする。
「理咲」
低くしゃがれた声が私を呼んだ。媚びるような口調にざわりと鳥肌が立つ。立ち止った私に気づき、何気なく視線を向けた陸の顔がみるみる歪む。
「理咲、本当に久しぶりだね。相変わらず綺麗だ。よく顔を見せて……」
街頭の下に現れた康弘さんが貧相な面持ちで私に笑顔を向ける。
思わず体を引いたのに、素早い動きで腕をつかまれた。その力の強さに、嫌悪感と恐怖感が沸き起こる。
「お前……よくものこのこと俺たちの前に……」
逆上した陸が康弘さんに掴みかかった。が、華奢な陸は体格ではまるで適わない。胸ぐらをつかまれてあっさり突き飛ばされ、アスファルトに叩きつけられる。