御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
誰か迎えに来てくれる人はいるかと聞かれて、真っ先に思い浮かんだのは怜人さまだった。
母は伊豆だし、父の会社があんな不名誉な最後を迎えて親戚づきあいも途絶え、こんな時に力になってくれる人など、今の私には誰もいなかった。
半年前なら、両親以外の身元引受人として思い浮かんだのは康弘さんだっただろう。そう思うと、本当に皮肉だ。
「意識もはっきりしているし、おそらく大丈夫だろうって、先生が。だけど念のためにCT検査をしてもらっています。何回も顔を殴られて、道路に倒れた時にも頭を打ってるかもしれないからって」
怜人さまはだまって隣に座ると、そっと私の肩を抱き寄せた。
私がしっかりしなければと強く張っていた気持ちが、ふっと解ける。
「あのとき、訳もなくあなたを行かせたくないと思ってしまった。今思えば虫の知らせだったのかもしれない。僕も一緒に同行するべきだったのに……。すまない、僕の責任だ」
「そんな……。私の方こそ、迷惑をかけてしまってごめんなさい」
そう答えると、怜人さまに頬を両手で包み込まれ、こつんと額を合わされる。
「怖かったでしょう?もう大丈夫だから、安心して。それにしても、彼は一体なぜこんなことを……」
「康弘さん、とても荒んだ感じで……。ファイルのパスワードが分からないって、言ってました」
「パスワード?」
「父の研究に関することだと思います」