御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
私の言葉に、怜人さまが考えを巡らせた時、検査室から看護士さんに伴われた陸が出てきた。
怜人さまが立ち上がり、陸のそばに歩み寄る。怜人さまを見た途端、丁寧に頭を下げた陸に、怜人さまはいいから、と肩にそっと手を触れた。
「怪我は大丈夫なのか」
「西条さん、夜分遅く申し訳ありません。俺の方は大丈夫なんですけど、念の為にってお医者さんが」
「頭を打ってるかもしれないんだから、当たり前だ。しっかり調べてもらいなさい」
そういいながら、怜人さまは無残に腫れ上がった陸の顔を痛々しい表情で見つめる。
とその時、ここへ来てから私たちにずっと付き添ってくれていた警察の人が、そばに歩み寄ってきた。
「失礼します。被害者の身内の方ですか」
「西条怜人と申します。……これは日本名ですが。正式な名前はこちらの名刺に」
明らかに日本人とは違う怜人さまの顔。一瞬怪訝な顔をした警察の人に、怜人さまは慣れた様子で名刺を渡す。
「これは……。あの有名企業の経営者の方でしたか。失礼ですが、被害者とのご関係は」
「僕の大切な人と、弟さんです」
迷わず答えてくれる彼が頼もしく、そして感謝の気持ちでいっぱいになる。
毅然とした態度で警察の人に対応する合間にも、怜人さまに合図のように優しい視線を落とされ、不安だった心が次第に落ち着いていく。