御曹司は身代わり秘書を溺愛しています


ふうと息を吹きかけながら、やけどしないように口に含むと、ほのかな甘みと、湯気に感じるブランデーの香りが優しく体に染み込んでいく。

少し心が落ち着き、サイドテーブルにカップを置くと、私を抱く怜人さまの胸にこつんと額を付けた。

こうして、この人の腕の中に戻ってこられた。その幸せが胸に沁みる。


「……だけど、岡部康弘、彼は一体なんの目的であなたを連れ去ろうとしたのかな」


ふうっとため息をついた怜人さまが、私の髪に指を差し入れながらつぶやいた。


「暴走を止めるマニュアル……そのパスワードが分からないって」

「それ、さっき病院でも言っていましたね。何か心当たりはありますか」

「きっと父のところから無断で持ち出した、重要なデータだと思います」

「でもなぜあなたを狙ったんです?」

「分かりません。でも父がいつも康弘さんに話していた内容から、私に関係があると思い込んでいるみたいで」


少し多めにあけられたシャツのボタンから、あらわになった怜人さまの肌が、体温をじかに伝える。
こうして胸にもたれて彼の鼓動を聞いているだけで、こんなにも安心できることが自分でも不思議だった。


一方の怜人さまは、康弘さんの行動について考えを巡らせているようだった。
しばらく黙って私の髪を撫でていたが、小さなため息をつくと、私の顎に手を添え上を向かせる。


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