御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
私を見下ろす真剣な表情が、すぐそばにあった。
「とにかく彼はあなたを連れ去ろうとしたんだから、用心した方がいい」
「はい……」
「それと、陸くんは退院したらしばらく、うちの系列のホテルに身を隠してもらおう。相手は相当切羽詰まった状況らしいから、しばらくは注意した方がいいでしょう。今回のことは立派な傷害事件だ。警察も動いてくれているから、そう怖がることもないだろうけど」
私はきっと、とても不安そうな顔をしていたのだろう。優しい微笑みを浮かべながら体をずらすと、怜人さまの腕が正面から私を抱いた。
「もう大丈夫だから……」
「はい……」
私も彼の背中に手をまわし、ぎゅっとしがみつく。すると、怜人さまの顔が私の首筋に埋まった。
肌に直接唇が触れているのが分かり、それだけで私の体温は上がる。
「警察から連絡があった時は……また心臓が止まりそうになりましたけど」
「ごめんなさい」
「いや、今回のことはあなたや陸くんに責任はないですから。僕が思っている以上に、事態が深刻化していたということでしょう」
そう言いながらもそっと体を離して私を見つめる瞳には、なにかを咎めるような色が浮かんでいる。