御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
そういえば、非常階段を上るときに脱いじゃったんだっけ。
慌てる私に、彼はゆっくりと方向を変えると、非常階段の入り口へと歩み寄る。
そこには、パーティ用の華奢なヒールが無造作に放り出されていた。
靴のそばまで近づいた彼が、ゆっくりと体をかがめる。
「あの、ありがとうございま……」
「ダメです。ちゃんと靴を履くまで、こうしていますから」
「えっ……」
ひざまづくように長い脚を折りたたんだ彼は、なんと私を膝の上に座らせる。
そして片手で私の靴をきれいに揃えると、「どうぞ」と首を傾げて私の顔を覗き込んだ。
さらりと揺れた前髪から覗く、くっきりとした二重。
さっき助けてもらった時には暗くてあまり分からなかったけれど、ライトアップされた屋上の灯りの下では、彼の瞳の色が日本人のものと違うことがはっきり分かる。
外国の人?だけど、彼の日本語はとても流暢だ。
体を支えてもらいながら靴を履くと、ようやく彼の手が体から離れた。
体が触れ合っていた時はドキドキしすぎて心臓が苦しいと思っていたのに、離れてしまえば淋しく感じてしまう。
ちぐはぐに矛盾した気持ちが、自分でもよく分からない。
「だけどさっきは驚きましたよ。声をかける暇もなく、君が吸い寄せられるように端まで行ってしまったから、本当に落ちてしまうんじゃないかって……本当にびっくりしました」