御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

怜人さまが意味ありげな視線を送ると、陸は「やっぱりそういうことかよ」と子供のように拗ねた顔をした。

それを見た六車さんが「そんなに私と二人が嫌ですか」と肩を落とし……慌てて「そういうわけじゃありません」と取り繕うやり取りを、なんだかほっこりした気分で眺めてしまう。


今日は、あの事件から初めて迎えた週末だ。

土曜日の午前十時、母たちが住む場所の近くで待ち合わせた私たちは、ひなびた漁村にはおおそよ不釣り合いな英国製の車を、海岸沿いの道に二台連ねて停めている。


陸の言うとおり、六車さんの車はゆったりとしたセダン。確かにここにいるみんなが、ゆったり座れそうな大きさだ。


「それに西条さんの車にも乗ってみたかったな。これって、ジェームスボンドが乗ってるやつでしょ」

「立場的に英国車を選ばなくてはいけないからね。……なんだ、車に興味があるのか。この件が片付いたら、今度乗ってみたらいい。お姉さんのことばかり考えないで、たまにはガールフレンドを乗せてドライブもいいんじゃないか」


怜人さまと陸のやりとりも、ずいぶん和やかなものになった。

それはそれで嬉しいけれど、まだ依然として康弘さんが見つからないのが気にかかる。

警察も捜査をしてくれているけれど、引き抜かれたはずの光本製薬も辞めたらしく、手掛かりはいまのところなにもない。

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