御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

「母さんたち、いきなり行ったらびっくりするだろうな」

「そうだね。驚かせてしまうけど、何度電話しても『忙しいから会う暇はない』の一点張りだし、こうなったらもう、こうやって強引に押しかけちゃうしかないでしょ」


今日私たちがやってきたのは、当然母に会って父の所在を確かめるため。

こうして怜人さまと六車さんが同行することになったのは、例の康弘さんの事件があったからだ。

怜人さまは、康弘さんが私を連れ去ろうとしたのは、私を盾に父を脅して、例のファイルのパスワードを聞き出そうとしたのではと考えている。

そして未だにその姿を隠して、自分の望みをかなえる機会を狙ってるに違いない、というのだ。

だから、私たちがふたりだけで行動するのは絶対にダメだと、今日はこうして大人数で母たちに会うことになってしまった。


「それに、理咲のご両親にもご挨拶をしなくてはいけないですからね。本当なら、あなたのアパートが火事になった時に、電話でもいいから説明をするべきでした」


祖母の家の住所を確認し、車を発進させた怜人さまが、少し困惑した表情で言った。


「未婚の若い女性とひとつ屋根の下で暮らしているのですから、もう少し早くきちんと対応すべきでした。……お母様とお祖母さまに叱られるかもしれないな」


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