御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
離れたとはいえ、まだ十分近い距離。彼は戸惑う私を見下ろしながら、問いかけるような眼差しを向ける。
お父さんと康弘さん以外の男の人に、こんなに近くで見下ろされるなんて、初めてのこと。
魅力的な男性にそうされると、こんなにドキドキしてしまうものなのだと、初めて実感する。
「ごめんなさい。とてもきれいで、引き込まれてしまって」
「美しいものに心を奪われてしまうことは仕方がないことだけど、これからは気をつけて」
美しいものに心を奪われる——。まさに今の私の状態だ。
「それにしても、君、どうしてこんな場所に?ここは関係者以外立ち入り禁止のはずなのに……」
「ここは……」
「このホテルのヘリポートです。危険だから、一般の人は入れないはずなのに」
ヘリポート!?
混乱する私の前で、彼は「失礼」と断りを入れると優雅にスマホを取り出す。
「はい。……分かりました。……いえ、大丈夫ですよ。僕の方も、少しバタバタしていたから遅れてもらって丁度良かった。そうだ、ホテルの方に連絡して、誰かヘリポートまで来てもらえるようにしてください。では、五分後に」
横顔も、斜めから見ても、どこから見てもあまりにも素敵だ。
じっと見つめる私の視線に気づいて、通話を終えた彼はクスリと小さな笑みを浮かべた。
「僕の顔に何かついてますか」
「い、いえ、そういうわけじゃ……」
「そんなにご所望なら、思う存分どうぞ」
不意に顔を近づけられ、ドアップできれいな顔を見せられる。
途端に心臓が痛いくらい脈打ち、カーッと顔に血が上る。
「かわいい人ですね。君はどうしてこんなところに来たの?今日はパーティか何か?」
「あ、あの……。知り合いを追いかけていたら、迷ってしまって」
そう答えて、はっと現実に戻る。