御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
それからみんなで祖母の家に戻ると、すでに祖母と母も帰宅していた。

私と陸はこの二、三日に起こった出来事を報告した。

誰も何も言わなかったけれど、家族みんなに悲しみが浸透しているのを感じる。


「だけど、なんであのタイミングで警察がきてくれたのかな」


不思議そうに言う陸に、六車さんが答える。


「今朝、怜人様がマンションの前に不審な軽自動車が停まっているのに気付かれて、その車が後をついてきたので、おそらく彼だろうと。さっき合流したときにそう聞いて、私が警察に連絡しました。車のナンバーも伝えたので、すでに見つけて様子をうかがっていたのでしょう」


「だけど、康弘さん、なんであそこまで……。光本製薬のお嬢さんとは結婚するって感じだったんだろ?」


「光本製薬の令嬢とは、例の研究が暗礁に乗り上げた時点で別れたそうです。……別れといっても、向こうから一方的なものだったらしいですが」

怜人さまがそう言うと、祖母の入れてくれたお茶を飲みながら陸が視線を落としたまま言った。


「なんかわかんねぇけど、康弘さんも利用されてたって可能性もあるよな。だってその人、すげぇきれいな人だったんだろ」


「うん……。だけど康弘さん、その人のこと本気で好きだったんじゃないかな。そうじゃなきゃこんなことしないと思う」


そう言うと、父が不審な表情で私を見つめる。


「どうして理咲は光本製薬のお嬢さんのことを知ってるんだ」


「あの……。半年前お父さんの代わりに行った披露宴で……」


あの時みた衝撃の光景については、この家族団らんの場ではとても話せない。

口ごもる私に代わって、怜人さまが口を開いた。


「あの披露宴には、実は僕も出席していました。その時に拝見した限りでは、あのおふたりは恋仲だったと言っていいでしょう」



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