御曹司は身代わり秘書を溺愛しています


「あのファイルが開けなければ、いずれ新薬の研究は行き詰まる。そうなったら自分を探し、何が何でもパスワードを聞き出そうとするだろう。そのことが分かっていたから、敢えて姿を隠して様子を見ていたんですね」


「康弘さんがパスワードを解読できるのなら、きっとあの研究を悪用することはないと信じていたみたいですけど……。でもだからって、私と陸まで騙すなんて酷いと思います」


「それほど、彼のことを大切に思っていたんですよ。……長年苦楽を共にした、大切な人だったんでしょう」


そう言いながらネクタイを緩める、怜人さまの表情も穏やかだ。


「僕も少しホッとしました。これであなたや陸くんが危険に晒されることはなくなるだろうし、会社再建にも前向きな答えをいただけたし。それになにより、あなたとの交際もなんとか認めてもらえたし……」


私と怜人さまのことに関して、両親からはなんの咎めもなかった。

でも実は『もう大人なんだから、自分で選択したことの責任は自分でとりなさい』と言った父に反して、台所に立った際母からは『あんなに大変な立場の人とお付き合いして、本当に大丈夫なの』とこっそり耳打ちされていた。


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