御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「理咲ちゃん、次の仕事、もう決まってるの?」
「いえ、まだ……」
「そう。ごめんね。せっかく仕事にも慣れてくれたのに。店だって、常連さんも増えて、これからって時に……」
そう言って肩を落とす真弓さんの手を思わず握る。
「何言ってるんですか!まずはご主人の体を治して、お元気になってからまたお店を始めたらいいじゃないですか!その時には、私、絶対手伝いに行きますから」
励ますように明るく言うと、真弓さんが目じりににじんだ涙をぬぐってじっと私を見つめる。
「ありがとう、理咲ちゃん……。ね、主人とも言ってたんだけど、やっぱり理咲ちゃんも一緒に来ない?主人の実家は農家だし、贅沢はできないけど、理咲ちゃんひとりくらい食べることには困らないわ。そこでゆっくり次の仕事も探せばいいし……」
「ありがとうございます。でも、ここには陸(りく)もいますし」
「そっか……。弟さん、大学生だっけ?そうよね、ひとりでおいてはいけないわね」
しんみりと言葉を切った真弓さんの手を、私は力の限りぎゅっと握った。
「大丈夫ですよ!何とかなります。それより真弓さんこそ、畑仕事頑張ってくださいよ〜」
「……そうね。私もがんばらなきゃね」
やっと笑顔に戻った真弓さんにほっとしながら、私は後片付けを続けた。