御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
やがて怜人が息を切らせてカフェに入ってきた。
怜人は今日で仕事を一段落させ、明日から年末までの一週間ほどをイギリス郊外の本宅で過ごして、その後は日本で年末年始を過ごす予定になっている。
「遅くなりましたね。ずいぶん待ちましたか」
怜人はトレンチコートを手に抱え、乱れた髪をさらりとなおす。
日本と違ってここには金髪で青い目の人はたくさんいるけれど、怜人の特別な魅力を放つ端正で甘い顔立ちに、注文を取りに来た店の女の子が見とれているのが分かった。
怜人は慣れた様子で営業用の笑顔を返し、「僕にも彼女と同じものを」とオーダーすると、私の隣の椅子に座って早速頬にキスを落とす。
それを見て、女の子は少しつつまらなさそうな顔をして、席をあとにした。
……やっぱり怜人の威力は、ここでも通用するんだ。
「お仕事は大丈夫ですか」
「ええ。きっちり終わらせてきたから、これから一週間はあなたとのんびり過ごせる」
そう言いながら、怜人は私の頬を愛おしげに手の甲で撫でる。
こちらでは、クリスマス当日と翌日を家族でのんびり過ごす習慣がある。
その間はすべての店舗が休み、交通機関までがストップする。
その辺りは日本とまるで違うけれど、宗教的な意味合いを持つ特別な日だから、それも当たり前のことだという。