御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
一方の彼はというと、部屋にいる間はほぼ話す間もなく仕事に没頭している。
今日だって、朝から昼食を取る以外は、書類とパソコンの画面をずっと見ている。
決して途切れることのない集中力は凄さまじいとしか言いようがなく、そうかと思えば、急な用件に対応する反応の良さは驚くほど。そばで見ていると、その逸脱した優秀さに圧倒されるばかりだ。
時計の針が三時を指す頃、彼はようやくモニターから目を外した。
それでも軽く首を回す程度で、だらけた様子は全くない。
「理咲、申し訳ないですが、お茶をいただけますか?」
ここでは、三時の紅茶を飲むことが決まっている。
仕事に集中していた時とは打って変わった穏やかな眼差しが私に注がれて、その華やかさに、もう三日目だというのに心臓がうるさく脈打つのを押さえられない。
……そろそろ見慣れたっていいはずなのに。
「分かりました。今日はどのお茶になさいますか?」
「理咲の好きなもので」
「それでは、今日はダージリンにいたしますね。甘いものも一緒にお持ちします。何か怜人さまのリクエストはございますか?」
そう尋ねた瞬間、穏やかな表情がほんの少し曇る。
「理咲、怜人でいいと言っているでしょう。『怜人さま』はやめて下さい」
「でも、六車さんもそう呼んでいらっしゃいますし」
秘書室のリーダーでもある六車さんですら『怜人さま』なのだから、私もそう呼ぶのは当たり前のこと。けれど彼は、その答えに抗議の視線を向ける。