御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「第二秘書のクラウディアは、親しみを込めて『フィル』と呼んでくれますよ。僕の場合、ファーストネームは父と同じだから、親しい友人や家族はみんなセカンドネームで呼んでいますが、あなたが呼びたいならファーストネームの『ウィル』でもいい。日本で過ごした少年時代には『怜人』と呼ばれていたから、本当はそれが一番しっくりきますけど」
「だから『怜人さま』と……」
「どう考えても『さま』は要らないでしょう」
「でも六車さんが」
ため息をついて立ち上がった『怜人さま』が、つかつかと私に歩み寄る。
そしてデスクに両手をつくと、そのきれいな顔をぐっと近づけた。
「理咲、六車さんは、父が日本にいた頃からサポートして下さっている方で、小さな頃からお世話になっている、いわば家族も同然です。もう何十年もそう呼ばれているのだから、今更変えようとは思わない。でもあなたには、もっと自然な呼び方をしてもらいたいんです」
「自然、というと」
「だから、あなたが呼びたいように。ウィリアム・フィリベルト・レイフォード・アスコット・怜人。長いですが、どの部分でもあなたが気に入った名前でどうぞ。ただし敬称はナシです」
普段、あまり声を荒らげない『怜人さま』が今日は珍しく執拗だ。
しかし、そんな風に言われたところで、簡単に呼べはしない。……私がそう思うのには、ちゃんと理由がある。