御曹司は身代わり秘書を溺愛しています




だけど、閉まる時間が八時ととても早い。
もう高齢のご夫婦が営んでいる銭湯だから、無理はできないそうだ。だから会社帰りに食事に誘われたりすると、その日は台所で髪を洗う……なんていうハメになってしまう。

スポーツクラブにでも入ればいいのだろうけど、まだ金銭的にそんな余裕はないし……。しばらくはこの生活を続けるほかなかった。

会社との契約で、給与は過分なほど払ってもらえることになったけれど、最初のお給料がいただけるのはまだ一か月ほど先のことだ。

だけど、これで三か月間は何とかなる。

それから先のことはまた考えなくてはならないけれど、二か月後に必要な陸の学費は何とかなりそうだ。


入浴を済ませて部屋に戻ると、簡単に食事を済ませて台所を片付ける。

秘書の仕事を始めてから三日。

仕事らしい仕事はまだできていないけれど、ようやく張りつめていた気持ちが和らぎ、久しぶりにゆっくりお湯につかったせいもあって急に眠気が襲ってくる。

まだ早い時間だったけれど押入れから布団を出して敷き、早々にもぐりこんだ。

心地よい眠りにあっという間に落ちていく。こんな安心感は久しぶりだった。

陸の学費の目途もついたし、六車さんたちも親切にして下さる。

そしてなにより、怜人さまはとても優しい。

まだ私は全く役に立っていないけれど、その恩返しの意味でも、できればもう少しきちんとした仕事をしたい。

私なんかにできる仕事は少ないかもしれないけれど、いさせてもらえる間は少しでも役に立てるように頑張ろう。

与えられた幸運に感謝しながら、私は深い眠りに落ちて行った。

枕元のカシミアのストールにそっと触れながら眠ったことは……怜人さまに絶対に知られてはいけない秘密だった。
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