御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
日本で国際会計士として働くハリーの言葉は、とても率直で嘘がなかった。
彼の明るさと誠実さは、きっと日本のクライアントにも高い評価を受けているだろう。
『ありがとうございます。私もみなさんとお会いできて、楽しかったです』
何より普段とは違う怜人さまの表情や、意外な学生時代の話なども聞けて、それがとても嬉しかった。
私の中で、宝物がまた増えた気分だ。
『じゃあまた会ってくれる?』
『えっ……』
怜人さまのことを考えて浮かれていた隙に、一瞬の不意を突かれてハリーの腕の中に囲われてしまった。
そして、ハリーの唇が頬に近づく。
これは挨拶だ、そう思っても、プライベートにおいても男性と触れ合った経験がない私には、あまりにも強すぎる刺激だ。
無意識に体に力が入る。が、ハリーの腕はいっこうに緩まない。女性の扱いに慣れている、ととっさに感じる。
ハリーの唇が頬に触れようとした時、いつの間にかそばに来ていた怜人さまがハリーの腕を強く掴んで引き離した。
いつも穏やかな怜人さまの荒々しい行動に、ハリーもレイチェルもあっけにとられたように固まっている。
『ハリー、理咲は英国式の挨拶には慣れていないんだ。遠慮してくれ』
とたんにふたりの間の空気が張りつめて、嫌な緊張感が漂う。
どうしよう。もしかして、私に配慮が足りなかったのだろうか。