御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
おろおろしながら思わず怜人さまの手に触れると、彼はハッとしたようにハリーから手を離した。
怜人さまも、明らかに困惑した表情を浮かべている。彼のこんな顔をみるのは、初めてのこと。
そんな様子に、ハリーがにやにやと笑顔を浮かべて肩をすくめる。
『悪かった。フィルの大切な人だなんて知らなかったから』
『いや……僕の方こそ……悪かった』
謝罪の言葉を口にしながら、怜人さまの手が、あまりの動揺に震えている私の肩を抱く。
『いいって。フィルでも取り乱すことあるんだな。いやー、今日はいいものを見せてもらったよ。今度向こうに帰ったら、みんなに報告しとく。じゃ、近いうちにまた』
悪戯っぽく笑いながら、ハリーが怜人さまの肩を叩く。
そして呆然とするレイチェルを促し、エレベータの扉の中に消えて行った。
そのまま私たちは、無言で地下の駐車場に降りた。
その間も、肩にまわされた手は緩まなかった。
大きくて温かな優しい手だ。
ドキドキするのと同時に、彼に触れられるとこんなにも安心なのは何故なんだろう。
車までたどり着いたものの、怜人さまは乗り込むでもなく、しばらくその場に立ちどまったままだ。
「あの……。怜人さま?」
しばらくの沈黙のあと思い切って声をかけると、肩にまわされた手がようやく離れた。
短いため息をつき、髪を掻き上げる仕草に訳もなくときめく。