御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「理咲があまりにも無防備だから、心配なんです。いつまでもこんなことでは、仕事にだって差支えがあるかもしれない」
「えっ……」
どうしよう。そんなに迷惑をかけてしまったのだろうか。
こんなことでは、秘書の身代わりなど、とても務まらないのではないか。
情けなさと心細さで、思わず涙がこぼれそうになる。
そんな私に気づいて、怜人さまがそっと私に触れた。
「理咲……」
うつむいた顎に手をかけられ、そっと上を向かせられる。
見上げた視線の先から、眉根を寄せた怜人さまが見下ろしている。
「大丈夫。力を抜いて……。まず、これは、軽い挨拶」
ふわりと力を抜いた抱擁。軽く体に手をまわし、ぽんぽん、と背中をたたく。
「あなたもやってみてください」
そう言われ、怜人さまの背中に手をまわした。
背が高く、体格のしっかりした怜人さまの背中には途中までしか届かないけれど、怜人さまがやってくれたように軽くたたいてみる。
怜人さまの腕が再び背中にまわり、軽く抱き合う形になった。
優しい抱擁。
なぜだかすごく安心する。
「そして軽いキス。形式的に済まそうとする人なら、本当にしなくてもいいでしょう。頬を合わせる程度に」
体をかがめて顔を近づけた怜人さまが、私の頬に自分のそれを触れさせる。
首筋から香る官能的な香りに、眩暈にもにた感覚が私を襲い、否応なしに鼓動が高まるのを必死で堪えた。