御曹司は身代わり秘書を溺愛しています


「でも年配の方の中には、形式を重んじる人もいます。その場合は頬のキスはきちんとした方がいいでしょう。キスの音も、ちゃんとさせてください」


怜人さまの唇が私の頬に触れた。

チュッという音が耳元に響き、体中に何かが駆け巡る感覚がおそう。

緊張のあまり足から力が抜けて、ふらついた体を怜人さまに支えられた。


「じゃ、次は理咲がやってみてください」

「あの……」

「これが一番重要なレッスンですよ。加減が、とても大切なんです」


両肩をつかまれ、すぐ近くで見つめられる。

海の色を映すブルーの瞳は、まるで魔法のように私の心に忍び込んでくる。


「まず、僕の頬に理咲の頬を合わせて。……できますか?」


問いかけるような瞳にうなづくと、背伸びをして怜人さまの頬に自分の頬をくっつけた。

さらさらした冷たい感触が、肌から伝わる。


「温かいな……。それに、理咲からは甘い香りがしますね」

「すみません」

「あやまらないで。素敵な挨拶です。これならばどんなに気難しい人でも、たちまちあなたの虜だ」


しばらく触れ合ったあと、怜人さまはそっと体を離す。

こんな練習、ドキドキしすぎて、苦しい。

短い息を吐きながら肩を上下させると、怜人さまの指が私の頬に触れ、手の甲でゆっくりと撫でられる。

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