御曹司は身代わり秘書を溺愛しています


「……例えば、これはやりすぎです。反対に言えばここまでやらないようにすればいい。だからのこのやりすぎの感覚を、きちんと体で覚えてください」

「わ、わかりました」


焦りながら言葉を返すと、怜人さまの腕がするりと解ける。


「今日の練習はこの辺にしておきましょう。……遅くなりました。家までおくります」


そう笑顔で言いながら、車のドアを開けてくれる。

私は上気した頬を手で押さえながら、助手席に乗り込んだ。

やがて車は、ホテルの駐車場から市街地へと滑り出す。

運転席の横顔からは険しい表情はすっかり消えて、いつも以上に優しい怜人さまに戻っていた。

ほっとするのと同時に、まだ彼と触れ合ったことで激しくなった胸の高まりが治まらない。息をするのだって苦しいくらいだ。

秘書の仕事とはいえ、こんなにドキドキする『練習』は困る。心臓がいくつあっても足りない気がする。

そう思いながら、本当はそれが決して嫌ではなかった自分にも、内心動揺していた。

彼と触れ合っているときは死んでしまいそうなほどドキドキするものの、いざ離れてしまうと、淋しいような心細いような気分になってしまったことに、自分でもどうにも説明がつかない。


気のせいだ。絶対そうに決まってる。


小さなため息をついてシートにもたれると、ふと自分の体からあの官能的な移り香がただよったことに気づいて、やっと冷めた熱がまた頬を染めた。
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