御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「怜人さま。今日はこれくらいにして、あとは明日対応なさったらいかがですか?」
午後七時を過ぎ、かれこれ六時間ほどパソコンに向かいっぱなしの怜人さまに、六車さんが苛立たしげに声をかける。
CEO室には怜人さまと六車さん、そして私の三人しか残っていない。
第二秘書のクラウディアは、ご主人との記念日デートがあるため今日は早々に退社、書類の補助をしている独身の田川さんはパート契約なので、フレックスとは関係なく定時を九時から六時に決め、すでに退社したあとだ。
いつもなら用事のない時には早々に帰るよう言われているけれど、今日は六車さんも外出していて、私が留守を守ることになった。
今日は何時ものように三時のティータイムすら取らなかった怜人さまは、よっぽど重要な案件に取り掛かっているのか、わき目も振らずパソコンに向かっている。
いっこうにキーボードを打つ手を止めない怜人さまが、六車さんの何度目かのダメ出しで、ようやくパソコンの液晶から視線を上げた。
いつもの穏やかさがない表情は、顔立ちが端正な分、より冷やかに見える。
「僕はもう少し仕事して帰ります。六車さんは先にお帰り下さい」
「いけません。昨日も遅くまで残っていたでしょう?今日はもう帰宅して、早めにお休み下さい」
「だって、まだ七時だ」