御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「卵焼きとタコの形のウィンナー。僕の好きな和食だって……」
「あのっ……。たまたまです。日本のお母さんのお弁当って、そのパターン多いんですよっ」
目の前を遮るように立ちはだかる怜人さま。
ごまかせないほど熱を持った顔を見られたくなくて、壁際に張り付くよう、怜人さまにくるりと背中を向けた。
「……そうだ。だから僕の母も、いつもお弁当はそのパターンだった。だけど僕はそれが大好きで、だって母の手が作って、握ってくれたものだから」
お母さんたちはいつも、食べてくれる子供たちの為に愛情を持ってお弁当を作る。
それを分かっていたから、怜人さまはお母様のお弁当を好きな食べ物に挙げたのだ。
それに、今日私だって怜人さまを思いながらお弁当を作った。母の愛ではないけれど、別の感情をもって……。
「お願いだ、理咲。こっちを向いて、顔を見せて」
珍しくぞんざいな口調になった怜人さまが、私の両肩をつかんで強引にこちらを向かせる。
「や……」
頬が焼けるように熱い。勝手にお弁当なんて作ってしまった自分が恥ずかしい。
やだ、見ないで。こんなタコのみたいな顔、怜人さまには絶対に見せられない。
私は固く握った手の甲をおでこに押し付けて、顔を見せないようにする。