御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
落ち着きを取り戻した陸が、いつもの調子で笑う。約半年前までは当たり前に家の中であった会話が、今はこんなにも懐かしく愛おしい。
住んでいる場所が火事になるという衝撃的な体験をしたせいなのか、私の心がなんだか不安定に揺らめく。
そんな私に気づくことなく、陸は思案気に言った。
「住むとこなくなっちゃったってことだよな〜。今どこ?取りあえずしばらくはウチにくればいいよ。先のことはそれから考えよ」
「今日は大丈夫だよ。怜……会社の人が泊めてくれるって言ってくれてるから」
それを聞いた陸は、少し警戒した口調で言った。
「会社の人って……。まさか男じゃないだろうな。ねーちゃん男に免疫無いんだから、ホント気をつけろよ」
不意に真剣になった口調に、心がツキンと痛む。
陸の脳裏には、きっと康弘さんのことがよぎっているのだろう。
「会社の女の人だよ。……もう遅いから、切るね」
そう伝えると、陸は安心したように「おやすみ」といって通話を切った。
自然に小さなため息が口をつく。
私たちの身の回りに起こったことは、半年近く経った今でも、なおも色濃く影を落としている……。
頭に浮かんだ余分な考えを振り払って顔をあげると、リビングの入り口で怜人さまがこちらを見ているのに気付いた。
いつからそこにいたのか、濡れた前髪が額にかかり、いつもよりずいぶん若く見える。
私はまた胸が騒がしくなるのを感じながら、あわてて立ち上がった。