御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「今の電話……。ご家族ですか」
「弟です。ニュースを見ていたみたいで、心配してくれて」
「お母さんに連絡は?」
「母が今住んでいる祖母の家、テレビがなくて……。きっとまだ何も知らないと思います。祖母も母も朝が早いのでもう休んでると思いますし、明日の朝連絡してみます」
怜人さまは「そうですか」と言って微笑むと、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してボトルに口をつける。
ボタンをしないで無造作に羽織ったパジャマの上着から、逞しい胸が見え隠れしている。
スーツ姿しか見たことがない怜人さまの、プライベートすぎる姿を目の当たりにし、胸の鼓動がうるさいほど騒いでいる。
私はさりげなく目を逸らしながら言った。
「あの……。怜人さま、今日は本当にありがとうございました。今晩お世話になって、明日には出ていきますから」
その言葉に、怜人さまがあからさまに眉根を寄せる。
「しばらくここにいればいいでしょう。通勤だって、僕が行くときに一緒に行けば楽だし。それとも、ここにいるのになにか不都合なことでも?」
「いえ、そういうわけでは……。でも、もしも怜人さまの大切な方に、変な誤解をさせてしまっては大変ですから」