御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
鋭く注がれた視線から逃れてソファに座ると、怜人さまも黙って私の隣に腰を下ろした。
奇妙な沈黙が流れ、なんだか落ち着かない空気が漂う。
「そんな女性はいませんから、心配しなくていい。……というか、ずいぶん他人行儀なんですね。さっきはあんなに情熱的な告白をしてくれたのに」
「情熱的な告白?」
「ええ。あなたは『僕に何かあれば自分も一緒に死ぬ』と」
そう平然と言われ、さっきの一部始終が走馬灯のようによみがえる。
そ、そういえば、確かにそんなことを言った気も……。
普通の状態じゃなかったとはいえ、あまりにも大胆な発言だ。……あの時は気が動転して、つい本音が出てしまった……。
「私、夢中で……。おかしなことを言って申し訳ありません」
「謝らないでください。さっきも言ったけれど、僕は真剣に嬉しかった。それとも、あの言葉は嘘だったんですか」
嘘なんかじゃない。けれど、私の本当の気持ちを怜人さまに伝えることなど、できはしなかった。
所詮私は身代わりの秘書、身代わりの婚約者候補だ。
黙り込んだ私を一瞥すると、怜人さまがふっとため息を漏らした。
そして、テーブルの上に置かれた紙袋に手を伸ばす。
「それにしても、あなたが命がけで取りに行こうとしたものはいったい……」
「ダメです、それは……!」