御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
慌てて手を伸ばしたところで、怜人さまの長い腕に届きはしない。
ひらりと私をかわして袋に手をいれた怜人さまの表情が、一瞬で驚きに変わった。
「これは……」
初めて会った日、別れ際に貰ったカシミアのストール。
すみに刺繍されたエンブレムは、怜人さまの一族の証だ。
「理咲……」
さすがの怜人さまも驚きのあまり言葉を失っている。
……当たり前だ。これじゃまるで、ストーカーみたいだもの。
その上、滅多にみられない戸惑ったような視線を向けられ、いたたまれずにソファを立った。
どうしよう、気づかれてしまったのかもしれない。
身の程知らずな恋をしている、私の気持ちに。
そのままルーフバルコニーに逃げ出そうとすると、正面に回った怜人さまに押しとどめられる。
ひそやかに憧れているだけでよかった。
その優しさに触れ、勇気を貰えるだけで十分だった。それなのにこんな状況、色々重なった結果とはいえあまりに残酷すぎる。
胸の内で神様に抗議しながら、逃げ場を探して身をひるがえすと、怜人さまの手が私の腕をつかんだ。
「理咲、これがあなたの大切なものなんですか」