御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

目の前にストールを突き付けられ、顔をそむけることしかできない。

頬が熱く染まり、鼓動が高鳴りすぎてどうにかなってしまいそうだ。

逃げ出したい。どこかに消えてなくなりたい。

けれど決して私を離さない怜人さまの手が、それを許さない。


「答えて、理咲」


怜人さまの手からストールが落ちる。そしてそのまま、彼の腕が私を包み込んだ。

首筋に落とされる怜人さまの唇。ため息のように言葉が紡がれる。


「どうしてあなたは、いつもこんなに僕の手を煩わせるんだろうな」

「え?」

「最初に会った時からそうだった。目の前に突然現れたかと思ったら、そのまま消えてしまいそうになって……。あの時は、心臓が止まるかと思うほど焦った」


いつもと違うぞんざいな口調。怜人さまの言葉が切なげに耳に落ちる。

ちょうど胸のあたりに押し付けられた私の頬には、怜人さまの心臓が鼓動を刻む振動が、力強く伝わってくる。

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