御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「今日だって突然飛び出したかと思えば、火の中に飛び込もうとして……。その理由が僕のストールだなんて、まったく、あきれます」
そう言われてみれば、確かに怜人さまには迷惑のかけ通しだ。
「あの、ごめんなさい」
「謝らないでください。本気で嬉しいって意味です」
「え……」
「だけど心配をかけた罰として、僕の希望を聞いてもらいます。そうだな、ホテルの屋上であなたを助けた時の分と合わせて、取りあえずふたつ」
そっと体を離した怜人さまに、とても近い距離で見つめられる。
いつも優しく私を見つめる瞳は、今は温度の高い炎のように、青く揺らめいている。
「まず、僕の名前はこれから怜人さまではなく、怜人と呼ぶこと。言っておきますが、これは相談ではなく決定事項です。では、どうぞ」
「えっ……でもっ」
「相談ではないと言ったはずですよ」
燃えるような眼差しで捉えられ、抗う選択はなくなる。
「れ……怜人」
「いい子だ」
怜人さまはいつもより低い声でささやくと、ふっとその眼差しを緩める。
「あの、もうひとつは……」
「次は簡単です。あなたはただ目を閉じていればいい」
優しい微笑みに促されてまぶたを閉じる。すると次の瞬間、柔らかな感触がくちびるに触れた。
驚いて目を開いた先には、まだ触れそうな距離に彼の顔。どうしたらいいのか分からず、思わずまた目を閉じる。
「本当にあなたといると、僕の心臓はいくつあっても足りないな」
ため息まじりの言葉のあと、彼の熱くて柔らかなくちびるが、また私をさまよった。