御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
赤いドレスと偽物の私
ピピピ……。

ゆっくり浮かび上がった意識の端で、耳障りな電子音が響いている。

目を開けると、マンションにしては高いクリーム色の天井が視界に入った。

聴こえていたのは、音量を抑えて設定したスマホのアラーム音。

私は無意識につるりとした液晶に手を伸ばす。

そしてまだぼんやりした意識のまま、羽根布団の中からゆっくりと身を起こした。

十一月も半ばを過ぎ、朝夕の冷え込みに秋の深まりと近づく冬の気配を感じる。

私は枕元に畳んでおいてあったカシミアのストールを羽織ると、キッチンに向かった。





怜人さまの部屋に居候させてもらってから、もう二週間が過ぎていた。

そして私は、まだ新しい部屋を決めることができないでいる。

以前のアパートほど安い物件が見つからないことは覚悟していたことだが、それ以外でも、部屋探しが進まない理由はいくつかあった。

まず陸には、『俺とに一緒に住めばいいから』と強く言われていた。

父と同じバイオテクノロジーの研究をしている陸は、大学の研究室に泊まり込むことも多く、私とは生活サイクルが違う。

陸が住んでいるのは狭いワンルームだけれど、部屋にいる時間が重なることは少ないから、あまり不便はないのではというのが陸の考えだ。

一方、伊豆にいる母と祖母には、東京での生活を引き払ってこちらにきたらどうかと言われている。



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