御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
祖父が亡くなってから、祖母は小さな漁師町で海女をやりながら細々と暮らしている。
そんな祖母の元に母が戻り、近頃はふたりで海産物やつくだ煮などを作って売っていたという。
それがおいしいと地元で評判になり、今では少しは利益が出ているようだ。
私が行けば二人が漁に出ているあいだの店番にもなり、なによりも嫁入り前の娘をいつまでも一人暮らしさせてはおけないというのが、祖母の強い意向だ。
『陸の学費もなんとかなりそうだし、理咲はもう心配しなくていい』
と母に言われ、ほっとすると同時に複雑な心境なのが正直なところだ。
本当なら、祖母と母のいる伊豆に帰るべきだと思う。
ふたりが力を合わせて起こした商売を手伝いたいという気持ちもあるし、父のことも気になる。
父の病状は予断を許さないということで、私と陸ですら四か月前に見舞ったきり会えていないのだ。
けれど、可憐さんと約束した秘書の身代わりを、今投げ出すこともできなかった。
それに……。怜人さまと離れがたい、と思っている自分の気持ちも、十分に自覚している。