恋なんてするわけがないっ‼
「ほら、そういうことよ。」
つまり、ミスを全然しない人もいれば、田邊君のようにたくさんのミスをする人もいる。何もおかしくない。そうね、言わせてもらうならこれが私にとっては普通に思えるけど。
紀田さんはそう言った。
その時の表情にどこか既視感を抱いた。
あぁ、あれだ。あの時のだ。
僕があの疑問を口にした時の母の表情だ。
なんで僕がそんなことを考えるのかを不思議に思うって顔だ。
僕はあの時、母のその表情がひどく恐ろしいものに見えた。
だけど、紀田さんのその表情にはそんなことを感じなかった。
その表情がトラウマじゃなくなった瞬間だった。