恋なんてするわけがないっ‼
それで、彼の滅茶苦茶な要望を何とか通すのが私の仕事の一つとなっている。
他に用事が詰まっていた時に何度か周りの人にそれをパスしようとしたことがあったが、これにより動きの変わる関係者全てに謝ったり、スケジュールの変更確認をしたりと非常に面倒な仕事は皆嫌がって何かと理由をつけて、誰一人として取り合ってくれなかった。
……それほどに面倒くさい仕事なのだ。
そのために私の苦労は軽くならない。
「……何とかしますが、いい加減に自分の言う事は何でも通るとお思いになるのはやめた方がいいのでは、藤沢部長サマ」
チラッと彼のほうを見れば、
彼は満足そうにし、なぜだか挑戦的な目をこちらへ向けた。
前述の通り、藤沢の目には拘束力がある。
その目に囚われないように、彼の手から書類を取り、先程から放心していた田邊君に体を向けた。
「はい、田邊君。書類の内容はOK。あともう少し早ければいいんだけど、あなたは仕事が丁寧で修正もあまりないからこれからもいろいろ頼むわね。」
はい、と書類を渡せば田邊君は喜びに頬を赤く染める。
彼が喜ぶ顔は犬みたいで可愛い。
私も何度もその笑顔を見たが、その可愛さ
にいつも頭を撫でてやりたくなる。
だが、仕事中だ。
とにかくそんな暇があるのなら一つでも多く仕事をこなしたほうがいい。
自分に喝をいれ、田邊君は席に戻した。