恋なんてするわけがないっ‼
昼になり、今朝切り分けて持ってきたシフォンケーキを食べているとデスクに影が落ちた。
何だろう、と振り向こうとしたその瞬間に手元からケーキの感触がなくなった。
見ればそれは今日出張でいないはずの藤沢だ。
「うまいな…これ」
悪びれる様子もなく、人の許可を得ずに奪ったものを食べる藤沢に一瞬イラッとするが、美味しいといわれて少し怒りも薄れる。
「今日は出張なはずよね、定時には帰ってこれないって言ってなかった?」
藤沢の綺麗な形をした口にケーキが入っていくのを見ながら、問う。
何度か咀嚼して、彼は時計を見た。
「先方がこの後予定があるとかで早めに進行したら大幅な時間巻き上げが出来たってところだ。」
大幅って……5時間も巻き上げるというのはあり得るのだろうか……
相当時間の掛かる案件だと聞いていたのだけど………
視線をこちらに戻した藤沢は、フッと笑ったかと思うと優しい顔をした。
「そのおかげで紀田の手づくりケーキ食えた。先方には感謝だな。」