恋なんてするわけがないっ‼
梅雨が明けて、7月末に差し掛かったある日。
私は衝撃を受けた。
「え、小雪ちゃんって年上だったの…?
てっきりもっと若いかと……」
失礼だとは思うが、小雪ちゃんをまじまじと見てしまう。
「えへへー、残念ながらほんとに年上ですよー、これでも32歳ですもん。」
32歳……!?
確かめるように小雪ちゃんの顔色を伺うが、にっこり笑って頷かれてしまう。
どうみても32歳には見えない。
肌も表情も若々しい、というよりもはや幼い。
あぁ…それに言葉遣いとか行動が若いのか。
「敬語とか、今更やめてね!紅ちゃん。」
ふと思い浮かびかけたことにすかさず釘を刺されて、エスパーかと目で訴える。
「仕事中は表情に全くでないのに、それ以外だと紅ちゃん結構わかりやすいよね。使い分けてるのかと思うくらい。」
「仕事は完璧主義かってぐらいにキッチリしてるし、相当気を張ってるんじゃないのかな。人に弱み見せたくない性分の人でしょ、紅ちゃん。」
紅ちゃん、のところをやけに強調してこちらの顔を意地悪そうに伺う瀬野君。
確かにそうだけど。
人に弱み見せたって付け込まれるだけじゃないの。
「その、紅ちゃんっていうのやめない?瀬野君。」
ため息をついてそう言えば意地悪な言葉が返ってくる。
「紅ちゃん、俺、年上。」
またもや名前を強調して言う瀬野君に
もうそれに言及するのはやめてデスクの上を片付けてバッグを肩にかける。
「駅前の居酒屋だっけ、この後のは。」
無視かー、とこぼしつつも、そうだよと答える瀬野君。
「じゃあ、いこっか。藤沢さーん、櫻井さーん、先に行ってますね!」
まだ少し今日中に仕上げたい仕事が残っているらしい藤沢と櫻井さんは、あとから来るようだ。
新しくなった幹部で親交を深めよう、と櫻井さんが提案した飲み会。
提案した櫻井さん自身があとから来るというのも、櫻井さんらしいような気もしてくる。