恋なんてするわけがないっ‼
「結構頼んだなー、もう楽しんでる?
…って、橘は見事に出来上がってんなー」
櫻井さんは小雪ちゃんを見て、楽しそうに笑う。
瀬野君は櫻井さんに助けを求めて、困った笑顔を向けた。
「いつもこうなんですよ、こいつ。
さすがに疲れますよー、櫻井さん交代してください…」
櫻井さんは全く…と言いつつも小雪ちゃんの隣に座って、話を聞き始めた。
「とりあえずビール…でいいですかね、あ、すみません、ビール3つお願いします。」
料理を運び終わった店員さんに瀬野君がビールを注文する。
櫻井さんと藤沢とおそらく瀬野君自身のものだろう。
「そういえば全然飲んでないね。」
瀬野君が私のビールジョッキを見て言う。
私のビールジョッキは運ばれてきた時とほぼ変わらない量だ。
「紀田はビール好まないな。」
藤沢が私のビールジョッキをちらりと流し目で見て言い、私の隣に腰掛けた。
疲れか溜息を一つ吐くとお冷を飲む。
お冷を飲んで喉仏が上下するのを私は無意識に見ていた。
「何、見惚れてんの?」
からかうように鼻で笑って藤沢は言うが、
私はいや、と首を横に一度だけ振った。
「なんか、二人の空気感いいスね。お互い分かり合ってて、しっくりきてるみたいな感じ。」
瀬野君が物珍しそうに、しかし至って真面目にそんなことを言う。
今のどこを見てそう思うのか、私にはさっぱり検討もつかないが、とりあえずありがとうと言っておく。
適当だなぁと瀬野君は笑って、料理をつまむ。