恋なんてするわけがないっ‼
定時きっかりに仕事にきりがついて、上機嫌でエントランスを出ようとしたところで、後ろから慌ただしい音が聞こえた。
振り向けば、田邊君が盛大にコピー用紙を床にぶち撒けている。
彼はダンボール箱から飛び出してしまったコピー用紙を慌てて拾い始めた。
こんなものを見てしまって無視をして帰れるわけもなく、彼のところへ手伝いに入る。
「田邊君、手伝うわ」
「ぁあっ、紀田さん!すみません‼ありがとうございます!」
私に気づいた田邊君は顔を上げてそう言うが、その時に拾ったコピー用紙が数枚彼の腕から逃げていくのに笑いそうになる。
こんなに絵に書いたような典型的な間抜けなんて、そうそう見かけない。
「どうしてこんなにコピー用紙を?」
「プリンタの用紙がなくなったので倉庫に取りに行っていたんですけど、途中で二階の部署の方も用紙が足りなくなったみたいで…。忙しそうだったので代わりに持っていこうと思ってダンボールで運んでたんです。」
こんな事になっちゃいましたけど……と言う田邊君にもう一つ疑問を投げかけてみた。
「段差なんてここには無いけど、何もないところでつまづいたの?」
タイルに隙間は一切ない。
突っかかるような出っ張りもない。
綺麗ではあるが、普通に歩いていれば特別滑りやすいわけでもない。
そして先程見た限りでは人にぶつかった様子でもなかった。
本当に何もなくて躓いたのか持っていたものをぶちまけたとしたら、完璧な間抜け認定だ。