恋なんてするわけがないっ‼
会社のエントランスで田邊君があまりにも長く顔を上げないものだから、私は彼に呼びかけた。
すると、彼は腰を低くしたまま顔だけをゆっくりとあげて、上目遣いで
「お詫びにお酒ご馳走させてください……」
なんて言うものだから、断れずに田邊君について来た。
そしたら着いたのはとても見覚えのあるバーで、彼もお酒を飲むときはここに来るのだと言った。
そして今に至る。
「これと同じのをもう一杯お願いしてもいいですか?」
田邊君は龍二さんに先程まで飲んでいたグラスを渡して頼む。
「お好きですか、マティーニ。」
龍二さんは意外そうに田邊君に問う。
「はい、好きです。とても。顔に似合わないってよく言われるんですけどね。」
照れ笑いを浮かべて一瞬こちらを見た彼。
「お酒お強いんですね。」
隆二さんもまた私の顔にちらりと目をやった。
どうぞ、と流石バーのマスターで、上品な所作でカクテルをカウンターに置く。
田邊君はマティーニを一口飲んで、私の方へ顔を向けた。
「紀田さん、」