君を待ってるから

* * *

オレには、好きなやつがいた。

幼稚園のころだった。

でもそいつには他に好きな人がいるみたいで。

いつも好きな人と一緒だった。

うれしそうだった。

「...。」

オレはいつも一人ぼっちで友だちもいなかった。

弁当を食べるのも一人で。

友だちと食べるとおいしい弁当も、おいしく感じられなかった。

ある日、いつものように一人で食べていたとき。

「ねっ、拓くん。りんごいるっ?」

オレの好きなやつが、言ってきた。

りんごを持って。

そのりんごは、うさぎのりんごらしかった。

「え...いや、いい。」

本当はもらいたかったけど、断った。

「いいって。ほら、食べてっ!ここ置いとくね。」

そいつはオレの弁当のふたにりんごを置いて、そいつの好きな人らしい幼なじみのところへ走っていった。

オレはうさぎのりんごを見つめながら、珍しく悔しかった。

うさぎのりんごは、そいつの温かい気持ちが込もっていて、甘くてとてもおいしかった。

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