あなたの願いを叶えましょう
「冨樫」

甘く低い声が私の名前を呼ぶ。

振り向かなくてもそれが誰だかわかってしまう、というね。

「朝一で悪い。アッププラスからなんか連絡あった?」

白いシャツに、ネイビーのタイを締めた黒澤波瑠は今日も爽やかだ。

私を見るなり一瞬目を見張った。

浮かれ気分を見透かされた気がして、妙に気恥ずかしい。

「まだないけど、午前中に一旦報告の連絡はもらう手はずにはなってる」

ビジネスライクに振舞って、平常心を装おう。

「ショールームの受電体制は、今日いっぱい整えているけど、土日の対応を決めたい」

「わかった。じゃあ、こっちから連絡してみる」

「ありがとう」

黒澤波瑠はにこりとキュートな笑みを浮かべる。

そんな風に微笑みかけられては、朝からいちいちときめいてしまうではないか。

「後でメールする」

しかし、そんな浮き足立つ気持ちをグッと堪えて、私はクールに言い放つ。
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