あなたの願いを叶えましょう
8. 王子の憂鬱
総合病院の一角にある診察室。

廊下を挟んだ向かいの長椅子に腰かけ、ちらりとお気に入りの腕時計に目を落すと17:00を過ぎた頃だった。

こんなに体調が悪い人ってたくさんいるんだな。

夕方になっても多くの人たちが椅子に座って、診察の順番をまっている。

白衣を着た看護婦さんたちがその間を縫うように、忙しなく行きかっている。

その光景をぼんやり眺めていると、隣に座る2.3歳の男の子が、突然火がついたように泣きだした。

顔をくしゃくしゃにして鼻水を流しながら、小さな手足をばたつかせている。

赤ちゃんを抱っこひもで括り付けながら、母親が必死に宥めて、鼻水をティッシュで拭ってやっているが、男の子は反抗するように、より一層大きな声を上げて泣きやまない。

なんだ、元気そうじゃん。

チラリと一瞥すると『うるさい』という視線に感じたのか、母親が困ったような顔をしてペコリと頭を下げた。

「これ、あげる」

俺はポケットから恐らくイチゴ味であろう赤い飴を取り出し男の子に差し出す。

偶然にもランチを食べたカフェのレジ横にあったものを持ち帰っていた。
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