あなたの願いを叶えましょう
突然話し掛けられて、驚いたのか男の子は泣きじゃくりながらも俺に視線を向ける。

「男なら泣くな。ママ困ってるぞ」

男の子は俺の顔を黒目がちな目でジッと見つめる。

出過ぎたことをしたかな、と思っても後には引けない。俺だって男だから。

しかし、彼は既に泣く事をやめていた。

こくりと小さく頷き俺の手から飴をそろりととって行く。

「ありがとうございます」

男の子の母親は、もう一度頭を下げた。

「いえ」

俺が微笑み返すと、母親は照れてはにかむ。

柄にもないことをしてしまったな。

誤魔化すように再び時計に目を落す。

そういや今日はデートだったんだっけ。

男同士じゃ確実に行かないような、古民家を改装した雰囲気のよい和食のお店を予約して、お気に入りのネクタイをしてきた。

先週末髪を切ってきたので、いつもより決まっていたような気がする。
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