あなたの願いを叶えましょう
視線を感じてフト顔を上げると、隣に座った男の子が無垢な瞳でじっと俺を見つめている。

なんだかバツが悪くなり、ソファーから立ちあがる。

診察にはまだ時間がかかりそうだ。

男の子の小さな頭を一撫でし、スマホのメールをチェックするため病院の入り口へと向かう。

外に出ると、木枯らしが顔に吹き付ける。

息を吐くと薄ら白くなった。もう冬はすぐそこまで来ている。

スマホの電源を入れると、メールが大量に受信されて、より一層俺を落ち込ませた。

急ぎの用件のみに返信していると、見覚えのある長身の男がふらりと姿を現した。

「お、波留」

そして俺に気安く声を掛けて来た。

「ナオシ、おせーよ」

デニムに、フレッドペリーのジャージを羽織り、長く伸びた髪を後ろで束ね、えらくラフな恰好だ。

たまたま俺だったからよかったものの、もしかしたら妻の職場の人間に遭ったかもしれないのに。

社会人としての配慮のなさに苛立ちを感じる。

「悪かったな」

ツンとしたアルコールの匂いが鼻を掠める。
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