あなたの願いを叶えましょう
「なんてのは、口実」

私はギュッとスカートを握りしめる。

「黒澤波留は大丈夫なの?」

震える声をしぼりだした。

彼の顔を見るているだけで胸が熱くなってどうしようもなくなってくる。

「大丈夫、じゃないかもな」

そう言って、困ったような笑みを浮かべる。

「来月の内示で、恐らく異動だってさ」

彼がボソッと言い放った一言で、心臓をギュっと握られたみたいに胸が苦しくなる。

「ど、何処に?」

暫しの沈黙の後に尋ねた声は少し掠れていた。

「これから決めるんだろう。俺は独り身だから何処でもいい、って言っといた」

黒澤波瑠はまるで他人事みたいに気楽な口調だ。

やっぱり出世頭だから、いま東亜電鉄でホットなホーチミン支社なのだろうか。

「大丈夫、きっと美味しいから、バインミー」

ショックのあまりにおかしな事を口走る。

「なんで今バインミーが出てくるんだよ」

黒澤波瑠は眉根を寄せ訝しげな表情だ。
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