あなたの願いを叶えましょう
「どこに赴任になるか解んない状況でいい加減なことなんて言えるかよ」

黒澤波留は感情を抑えるように、大きくため息を吐く。

「九州、北海道?もしかしたら本当にベトナムかもしれない。富樫は今の生活全て捨てて俺についてくる覚悟はあるの?」

突然、現実を突き付けられた。

昇給は微々たるものだけどやり甲斐のある仕事。野口さんとえりかちんの笑顔が脳裏を過る。

毒舌だけど、気の置けない友人達もいる。

新入社員の頃から住んでいる築30年のボロいマンション。だけど私が初めて築いた自分だけのお城だった。

「え、遠距離恋愛って道もあるじゃない」

「東京に戻れる保障はどこにもない」

黒澤波留はおっきな目で私をじっと見つめる。

全てを捨ててついてくる覚悟はある?

その目は私にそう問いかけているみたいで、私は何も言えずに黙りこむ。

それでも黒澤波留について行く

そう即答することが出来ない。

好き、という感情の勢いだけでは行動に移せない。

分別がつくほど、私たちは大人になってしまった。
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