あなたの願いを叶えましょう
常務が咎めるように咳払いすると、黒澤波留は愛嬌たっぷりに肩を竦める。

もうそれだけで全てが許されてしまうのだろう。

「やだー!えんさん!いつの間にぃ?!」

隣ではしゃぐえりかちんを横目に、私はなんとか気絶しないよう、全集中力を掻き集め正気の体を装っていた。

◆◇◆

定時の鐘がなると同時に、私は無言のままガタリと席を立つ。

「やだぁ、デェトですか?と・が・しさん!」

野口さんがニヤニヤしながら冷やかして来た。

どこに行っても好奇の視線に晒されているような気がして、朝礼から今日一日は生きた心地がしなかった。

こんな日は定時退社するに限る。

「とがしくーん、イケメンの彼氏が出来てよかったじゃないかー」

健康器具で肩を揉みながら部長まで声を掛けてくる始末。

「いや、別にそんな―――」

付き合ってる訳じゃありませんから!

と、否定する前に「富樫」と声を掛けられる。
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