あなたの願いを叶えましょう
実家は横浜の青葉区だとか、高校までサッカー部でポジションはFWだったとか、黒澤氏は取り留めのない事をだらだら話している。

「冨樫さんは何部だったの?」

「ねえ、そんなことを話すために今日私を誘ったの?」

私は単刀直入に切り出した。

「富樫さんに今日は色々お世話になったから」

黒澤氏は笑顔で取り繕う。

「う・そ」

私を労うほどこの男は殊勝じゃない。

一緒に食事をするほど私に興味がある訳でもない。

そんな事はとぉっくに解っている。

じっと見据えると、いつもは迷いのない信念が宿るオニキスみたいな瞳が微かに揺れる。

まぁ、珍しい。動揺してる。

黒澤波留は乾いた喉を潤すようにコップの日本酒を口に含む。

喉仏が上下にコクリ動いた。

「昨日のこと…人には言わないでほしい」

「昨日のことって?」

「惚けるなよ」

ああ、と言って私は肩を竦める。
< 40 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop